Archive for October 2006

31 October

森・・・/立川編。


「・・・できません」
「別に、神経質にならなくてもいいことですよ」
「いいえ、そうではなくて、気がすすまないんです」
「やってみれば、そんなこと、ありませんから」
「・・・あの・・・さっきもお話しましたが、私、今日はとても具合が悪いんです・・・」
「じゃあ、お見舞いに行きますよ、これから」
「困ります」
「どうして?」
「寝込んでいるんです」
「実家から、たくさん蜜柑を送ってきたので、それを持って、お見舞いに行きますよ」
「お見舞いより、今、私を休ませてほしい・・・かな・・・?」
「ああ、そうですね・・・。でも、やってほしいんです。いつ、会えますか?」
「・・・さあ、明日は、無理です」
「明後日は?」
「・・・どうかしら?・・・でも、できません」
「それなら、会って話をしませんか?」

 この会話は、20年以上前のもの・・・或る美大生とのものだった。
 学生時代の初夏のこと(ルパンとおつき合いする前のお話よ)、私は美大生とのコンパに出かけたことがあった。男5人、女5人、美大生と音大生。立川のチェーンの居酒屋で。
 美大組は、皆、油彩科だった。とてもユニークな人たちで、こっちは何だか、コンパニオンをしている気分になりそうだった・・・記憶がある。
 そんな中、私はひとりの男の子に集中して質問された。・・・以前も書いたかも知れないが・・・その話題のもとは、サルトル。「高校時代、『水入らず』は、読んだけれど、あまり気持ちよくなかったわ」と、何気なく私が言ったら、その彼は、「『嘔吐』を読まなければ! サルトルは、『嘔吐』を読まなければ語ってはいけない」。・・・私、「ああ、そうなの・・・」。
 その後、「君はどんな作家が好きなの?」と彼に尋かれ、「太宰かしら?」と応えたら、もう、大変。太宰嫌いを殊更曝け出されてしまって・・・「どうして君は、あんな作家が好きなの? 三島を読んだこと、ないんですね? 三島を読めば、太宰なんか、読めませんよ」・・・私、「太宰が好きで、すいません」。・・・三島だって、読んでます・・・って、もう、言いたくもないほど、くたびれた・・・私・・・。

 とにかく、私はこの男に不愉快になった。他の絵描きの卵さんたちは、かなりユーモアがあり、楽しい人たちだったのだが、この彼だけは・・・はっきり言って・・・暗かった。・・・いや、暗いということは、悪ではない。人間、誰だって、心の中に、暗い部分を持っている。だから、そんなことは当たり前なのだが、その暗さを自慢する族が、私は好きになれない。・・・暗いものがあるからこそ、痩せ我慢したり、お道化ていたりしたいのが、私だったりするのだもの。それに、どうも、真面目過ぎるところが、厄介に感じた。・・・こいつ、不良じゃないだろう・・・悪い言葉を使うなら・・・ウザイ・・・わ・・・。
「あなたと私は、気が合わないみたいね」と、その晩、きっぱり私は彼に告げた。
「そうかもね、だけど、意見は違うから、面白いと思うけど」
「意見が違うのではなくて、性分が違うのではないかしら?」と、私。
 はい、私は試されたり、絡まれたりするの、大嫌いなのです、しかも、お酒が入った男性に。

 その晩、私は彼に私の電話番号など、絶対に教えた憶えは無い。・・・が、何故かしばらくして、彼から電話があった。私は少し、体調を崩していて、本当に寝込んでいた矢先だった。
「僕の絵のモデルになってくれませんか?」
 これが、彼の電話の目的だった。
 私はびっくりした。というか、不可解極まりなく・・・だった。・・・どうして私なのでしょうね?
 ・・・そうして、お見舞いなどに来られるくらいなら、私が出向いて、お断りする方がマシだと思い、私は具合の悪い躯を立ち上げて、出かけた。
「立川までなら、出ます」と、私(涙)。
「駅で、待っています」

 さて、或る日の午後、立川駅まで行ってみれば、彼は自転車を停めて待っている。
「後ろに乗って」
「ええ?」
「僕の躯にしっかりつかまっていてくださいね」と、彼。
 ・・・つかまりたく・・・無い・・・な、私。・・・だから、つかまらないで、しっかり自分の躯を安定させていた私。
 ・・・ああ、これが、好きな男の子だったら、どんなに素敵かしら?! ・・・でも、違うのね・・・。
 長く感じる、自転車の旅だった・・・行き着いたところは、古い一軒家。
「入って」と、笑顔な彼。「今、コーヒーを入れる」・・・ええ、そうでしょうね、それが相場よね、しかも、そのコーヒーは、インスタントでは無いのでしょうね・・・わかっているわ、そんなこと・・・。

 彼はこの家を友人と一緒に借りているのだという。私が通された部屋は、アトリエ兼居間なのだとか。家具はカラーボックスだけ、殺風景だった。しかし、絵描きの卵だけあって、この居間の日当たりは、そう悪くは無い。
 彼と私の間には、テーブルは無く、私は、体育座りのまま、言葉少なく、コーヒーを飲む。
 すると、彼はおもむろに鉛筆と画用紙を手にした。
「待って・・・私は、嫌なんです!」
「自然にしていたら、大丈夫だから。10分ポーズと15分ポーズ、どっちがいいかな? はじめてなら、10分がいいね、きっと」
「ちょっと、待ってよ!」
「そのままでいいから・・・ああ、そうだ、でも、足は横に崩してくれたらいいな」
 私は呆れた。そして、腹をすえた! ・・・そうですか、煮て食おうが焼いて食おうが、かまいません! 私も女よ! どうにでも、してちょうだい!
 足を横に崩し、私は彼に尋ねた。「私より、絵になる女の子がいたはずだけど?」・・・実際に、私よりモデルに向いている女友達がいたはずだ・・・だって、絵描きさんの娘だって、あのコンパにはいたのだから・・・しかも、彼女は私なんかよりずっとグラマーだし、顔だって個性的。
「君のそのままの姿を絵にするわけではないんだ・・・ただ、僕は、君を描きたくて・・・」
 ・・・そのまま・・・? ・・・一度会って、話しただけの私の何があなたにわかるというの?
 いいえ、お会いした回数が問題なのではないわ、何度お話しても、あなたには、話、通じないわ・・・。
 それに・・・あなたの顔なんて、見ないわよ!

 ・・・ああ、この目の前で、私を見つめ、筆をサラサラと走らせているのが、私の大好きな人だったら、どんなに幸せだろう!!・・・と、心から思ったわ。・・・私の顔を、首を、肩を、胸を、腰を、足を・・・じっと見つめ、描いてくれる人が、もっと、不真面目で、生真面目で、悪戯な人だったら、どんなに素晴らしいかしら?! ・・・サラサラ・・・カリカリ・・・聴こえてくるペンシルの音がくすぐったく聴こえるような心境になれたなら・・・。
 でも、それは、あなたでは、無いわ・・・。

 ・・・だから、私は、仕方なく、そういう場面を想像しながら、生贄になった。

 しばらくしたら、彼は大胆にも、こんなことを私に言い出した・・・
「そのまま、後ろを向いて・・・背中を描きたいから」

 ・・・はい、どうぞ・・・どうせ、私はあなたを見ていない・・・もう、どうでもいいことだわ・・・そんな要求・・・。

 そうよ・・・私が今、考えているのは、この私に命令を下しているのは、あなたでは無く、もっと、私が好きになるはずの男性なのだわ・・・っていう、夢想よ。 

 ・・・女にとっての、最大の恍惚と身震いするような押し黙った刺激を感じさせられる・・・という、怖いような錯角・・・。
 ・・・空しいかもしれないけれど、そう考えようと思わなければ、やってられないわ、今!
 私の、目一杯な想像力を働かせましょう、この瞬間!
 私が見ようとしているのは、そういう憧れ・・・あんたなんかでは、無い!

 彼は愚かにも、更に大胆を試みるわ・・・つまり・・・

「脱いでみませんか?」
「駄目です、私は、素人なんです」
「君の躯をそのまま、描こうと思っているわけではないんだけどな」
「私は、華奢ですから」
「別に、華奢だから描きたいわけではないんだけど」
「・・・私は具合が悪いのに、あなたのために、お話を聴きに来たのですよ・・・それなのに、あなたは・・・」

 私はさすがに、怒りの発言をした。

「それなら、これを・・・」と、言って彼が私に差し出したのは、サルトルの『嘔吐』だった。
「けっこうです」

 あなたと私は、サルトルとボーヴォワールには、絶対に、なれっこないのよ!

 まだ、わからないの?!・・・と、その時、言ってやろうかと思ったけれど、止めたわ・・・もう、話をする体力もなかったのだから。


 私は、男性の真摯な瞳が好きである。

 戸惑いはしても、その視線に、私が応えたくなるような、優しさや無邪気さがあって・・・私はその素直な感情に・・・騙されてみたくなる。

 この絵描きの卵さんは、当時の私には、ただ暗いマスクを被ったフリをするイケスカナイ男の子そのもに見えてしまった。

 彼が今、絵を描いているとして・・・私には、正直、興味は無い。
 例え、成功していたとしても、興味は、無い。

 こういう世界では、結果主義・・・ということがあって、その作品を創った人が、どれほど性格が悪くても、表現は素晴らしいというケースは、よく知っている。音楽家にも、たくさん、いる。
 ・・・が、それには、持って生まれた才能が大いに貢献している。

 ほとんどのアーティストが、悩み苦しみ、暗い部分を克服して、生を表現している。
 生を表現することは、愛を示すことによく似ていて、勇気が必要なのね。
 だから、相手を軽んじてはいけないし、自分も覚悟しなければいけない。

 ここに、ひとつの、隠された、”マナー”が、生じるわ。
 若いと、その隠された”マナー”は、難しいものかもしれないけれど、成長するうちに、この隠された”マナー”への、愉しみや、アンニュイなメタファー、そして、それを解するもの同士だけが解り合える喜びを知る時が来るわ。

 そんなことが、少し理解できた頃、人間は、自分の道をようやく知ることになるのよ、恐らく。

 その時こそが、ヌード。
 

 そしてね・・・私を裸にするなら、せめて、もっと、景気よくなくては、いけないわ。

 ご実家から送られてきた蜜柑とやら・・・そういえば、あなた、あの日、私にくださらなかったわね?

 ええ、蜜柑など、欲しくはないわ!

 だけどね・・・そういうこと、お忘れになってしまうようでは、身は立ちませんことよ。


 さあ、日付けは、もう、10月31日。

 悪戯な精霊が、霜に混じって空から降りてくる、ハロウィーン!

 森の木陰で、ドンジャラ ホイッ!

 私も、その仲間に、入りたいわ!

 ルルル・・・メルヘン・・・

 ルルル・・・メルヘン・・・

 悪戯な妖精が、微笑んでいる・・・

 そよ風のように、微笑んでいましょう・・・。










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29 October

そよ風のように。


  そよ風のように 生きてゆきたいの

  やさしく人の 心に触れてみたい


  春には花と 秋には木の葉

  冬には雪と 自由に戯れたい



  なみだ流す時は そっと顔をそむけ

  かわいたら微笑んで こんにちは



  そよ風のように 生きてゆきたいの

  ふれ合うひとに しあわせ運びたいの



              「そよ風のように」

                    作詞 なかにし礼
                    作曲 大野雄二


 いい歌だね


 '73年だよ

  
 クィーンは占い師
 ジャックはイカサマ師
 ジョーカーは舞台でお辞儀をするわ
 スペードのエースは競馬場で遊ぶ
 クローヴァーは夢を導くお薬
 ダイアは奥ゆかしい盗賊
 ハートは・・・頬を染める情熱
 


 そろそろ冬が近いけれど、そよ風のように・・・

 馬草が御馳走になるように・・・

 スウィート・ジェーンは、例え騙されたって、そよ風のように・・・

 ・・・私の目をあげる・・・

 そんな言葉を、惜しみ無く言える、そよ風さん・・・

 
 白ワインに お砂糖 シナモン ニクズク 白胡椒 レモン汁を蒸溜して・・・

 処方箋の出来上がり。

 
 そよ風は、微笑み絶やさない。







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28 October

もう森へなんか行かない/西荻編。


 フランソワーズ・アルディが歌った名曲、「もう森へなんか行かない」・・・ロンサム・ストリングスもカヴァーしているが、今日は、このアルディの歌を聴いて過ごす。
 

  私の青春は行ってしまう 詩にそって
  韻から韻へ 腕をぶらぶらさせて
  私の青春は行ってしまう 枯れた泉の方へ
  柳を切る人たちが 私の20才を刈り取る

  私たちはもう森へなんか行かない
  詩人の歌 安っぽいリフレイン
  俗っぽい歌を 陽気な男の子に夢見ながら歌っていた
  私はその名前さえ忘れている


 私がこのレコードを頻繁に聴いていたのは、この歌に登場する娘とほぼ、同じ年齢の頃・・・。
 
 ふと思い出した、当時のこと・・・ルパンとおつき合いをする前のこと・・・それは、西荻での夜のこと・・・。

 20才を過ぎた頃、私には3年くらいおつき合いをした恋人がいたが、もう、その恋は、何時終っても不思議ではない状態になっていた。その男の子と私が壊れない理由は、ただ、3年間の思い出でしか、なかった。
 若いと、例え3年くらいの月日でさえ、大変長い時間を共にしたような気持ちになる。ましてやその彼とは、高校3年の暮頃からのおつき合い・・・それも遠距離恋愛をし、一度別れ、そうして再びおつき合いするという具合だった。10代の終りを飾ったという意味では、貴重な時間を共有したが、それでも、若さゆえ、気持ちが離れはじめると、落ちていくのも速い。
 大学内の一部では、同級生や先輩後輩を含め、私とその彼がおつき合いをしていることは知っている人は多かった。彼の専攻の教授も含めて・・・という具合だった。そう、その彼は何処へでも私を連れて行き、誰にでも紹介した。しかし、もうその時期には、私たちが危ういということを知っている人も、多分にいただろう。

 そんな私は、或る男性と親しくなった・・・彼は私より、2つ年上だった。繊細で、哲学的で、独特の話し方をした。信仰を持っても、いた。ギターも弾いた。それでも、いつも素面で会っていたのだが、或る晩、誘われ、一緒にお酒を呑んだ。

 それが、西荻だった。

 駅の改札で待ち合わせをした。「魚が食べたい」という彼に合わせて、私たちは何となく南口に足を運んだ。・・・「ここにしようか」と言われ、入った店は、若者にはあまり相応しくない店だった。値段の問題ではなく、もう少し、世慣れてから入った方が良い感じの店・・・だった。
 この店で、長居をするうちに、私は彼に混乱させられたのをを憶えている。決してあからさまな態度をとられたわけではない、若いがとても紳士的だった彼である・・・が・・・私の混乱の原因は・・・あえて言うなら・・・打ち解けたいけど、打ち解けられない・・・という仕方ない気持ちだった。

 ・・・そう、私はまだ、どうしようもない関係の恋人との間に、決着がついていなかった。

 そうして・・・実は、私には、当時の恋人よりも、また、この西荻で呑んだ男友達よりも、もっと好意ある男がひとり・・・いたのだ・・・わ・・・そう・・・打ち解けてしまいたい男性が。

 西荻から帰る時、私は荒れていた。恥ずかしいことに、持っていたバッグを道に叩き付け、蹴り、ぶざまに拾い、「ごめんなさい、さよなら!」と言って、泣きながらタクシーに乗った。

 その後、そのどうしようもない恋人関係も、終止符を打つ時がやってきた。
 別れの言葉を言ったのは、彼の方だった。
 そう、私は言わない・・・彼がそれを言う、その時を、待っていればいいと、ずっと思っていたのだ。私は、悪者なの。
「・・・ダイアモンドのような時間だったね・・・」と、若い男の精一杯に着飾った愚かな言葉を耳にした時、私が思ったことは・・・
「・・・もう、恋は、こりごり・・・」だった。

 それ以来、男が「ダイアモンド」という言葉を美化して使うのを耳にすると、安っぽい感じがする私。・・・だって、ダイアの魅力なんて、男にわからなくてもいいお話よ。

 ダイアモンド・・・これを自分の歌の歌詞にしたりする男性もいるわね・・・すいません・・・私は、願い下げ・・・です。
 ああ、そうね、ビートルズが”キャント・バイ・ミー・ラヴ”で歌っていたりするけど・・・日本人の男性がダイアモンドって言うと、野暮だわ。・・どうかお願い、日本の男は、ラヴ・ソングを作る時に、絶対にこのダイアモンドは、止めて!・・・そうね、どうしても、宝石を言葉にしたいなら、せめて、”ルビー”にして・・・これなら、許せますわ。

 そして、少し前のことだが、私は久しぶりに西荻で呑んだ。
 お相手は・・・通称”チョコレート・サンデー”氏。
 待ち合わせは西荻改札。
「どっち側にする? 南は、ディープ、北は、そうでもないけど?」
「どっちでもいいわ」と、私。
 チョコレート・サンデー氏は、何気なく言うわ。
「北にしようか?」
 私は彼についていくだけでいい。赤ちょうちんをくぐる。いい店だ。客は男ばかり。若者は、いない。

 で・・・北なのに、何時の間にか、ややディープに酔ってしまった私・・・。

 もう森へなんか行かない・・・が、甦る・・・。

 しかし・・・

 チョコレート・サンデー氏は、気心知れた友人だ。
 その昔、一緒に呑んだ青臭い男友達とは、全く違う。

 やがて仕事帰りのルパンもウーロン茶で合流。

 酒場の経験は、中央線がどうしても多い。

 その中でも、この西荻・・・どうやら私をディープにする場所と観た。
 

 20才の恋を失う女は、世界中にいるわ。

 だけどね、森へ行くことを、その時は恐れても、また、必ず、森へ行きたくなるの・・・女とは、そういうものよ。

 世界中の、恋する女たちよ・・・森を恐れてはいけませんことよ。

 失恋とは、ただフラれることだけを言うのでは、ないわ・・・。

 上手に、フラれてあげることも、たまには、いいものよ。

 できれば、後腐れなく・・・が望ましいわ・・・

 でも、気をつけてね、殿方に、「あなたとは、別れてもいいお友だちでいたいわ」・・・なんて言うとね、面倒なものよ・・・だって・・・そんな甘いことを言うとね、殿方は、寂しい時、誘ってくるのよ・・・。

「ねえ、一緒に飯、食わない?」ってね。

 一度くらいなら、奢ってもらいましょう。

 でも、それ以上、便乗すると、足元、見られかねないから、止めましょう。

 ああ、そうだわ・・・それでも、本当に好きなら、勝負してみるのも、いいわね。

 ”据え膳食わぬは男の恥”・・・くらいの見せ所、つくりましょう。

 これは、できれば、新しい恋で、やってみたいことね。

 新しい森に、出かけて行く覚悟でね。

 
 もう森へなんか行かない・・・

 それは、乙女の迷路・・・

 若いと、真剣な迷路・・・

 少し大人になれば、心地よい迷路・・・

 片手の感触を守ってさえいれば、必ず出口に行き着く迷路・・・

 木の葉をしっとり感じる、森の迷路・・・








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27 October

10/25渋谷BOXX&ロックな乙女。


 何だかんだで、ロックが好きな私・・・昨晩は、青山陽一さんのライヴに久しぶりに足を運ぶ。

 新作を発表した青山君、今回のアルバムは、ストレートに伝わってくる感じが好きだ。

 思えば、もう、20年弱、青山君の音楽を聴いている私なのね・・・で、実に、昔の曲なんて、口ずさんでいる時も、あるのね、時々・・・。

 彼の書く曲は独特のコード進行で、テンションコードのあり方も粋・・・無駄な遊びでは無く、生きている。旋律も乙女泣かせなものも多くて・・・そのくせ、物凄くシンプルなことも好きな青山君なのね。

 で、我が家では(というか私が勝手に)、青山君の歌詞を、「”だろう”節」と、呼んでいたりして・・・だって、「・・・だろう」が本当に印象的なんだもの、昔から・・・。
 この「・・・だろう」・・・普通は、曖昧な響きなのだけれど、どうも、彼がこの「・・・だろう」を歌にすると、限りなく「・・・だ」に近い「・・・だろう」なのね、私にとっては。

 そういう痩せ我慢的な魅力が、彼の音楽をメロウなロックにしているような気がするのかしら・・・?

 いいえ、近頃の彼は、メロウなロックでも、ないわ。
 直球の魅力を満載に・・・な感じもあるわ。

 ギターを持って、歌う姿は、相変わらずな青山君。
 遠くを見ている感じが好きだな。
 そして、ギター弾きたくて仕方がないところが、また、伝わってくるのね。
 キュ〜イ〜ン♪・・・はい、久々に聴きました!
 我が家には、ほとんどチョーキングしないギタリストがひとりいますので・・・(苦笑)。・・・いや・・・大昔は、していたかな(笑)?
 でも、彼が抱いていたダークな蒼のギター・・・群青なギター・・・真正面から見ると、真っ黒にも見えて・・・いい色だな・・・(すいません、ギターの色・・・つい、口喧しくって・・・サンバーストは、どうも好きではありませんの、因に・苦笑)。

 箱が禁煙なのは、借り物的・・・これは、私が喫煙するからという理由だけではないわ・・・最近、そういう場所って増えているのかもしれないけれど・・・。

 それから、ベースがチョッパーしている時は、踊らなきゃ・・・ね。

 ヘイ!

 だって、ロックだぜ!

 ロックはさ、ダーティーな部分無いと・・・さ・・・。

 守りなんて言ってたらさ・・・つまんないじゃん!

 こんがらがって、スモークされているのが、いいのよ!

 これ、青山君に言ってるんじゃないわよ・・・ほんと、誤解しないでね・・・だって、ロックなんだもん!

 決して、楽しい日常だけじゃ、気がすまないのが、ロック!

 ・・・ああ、ごめんなさいね・・・あんまりグレると、槍が飛んでくるかもしれないわね。

 だけど、ロックはさぁ〜・・・ねえ、石が転がる・・・なわけよね、窮屈だったら、駄目なわけよ、私の中では。

 青山君って、あのほっそい躯の全身で、やるわけよ、ロック。
 ああ、あんまりこんなこと言うと、知らないところから、石、投げつけられるかしら・・・嫌よ、そんなの・・・。

 でも、ロックは、魂なわけよね・・・私って、古い?・・・ええ、結構です・・・血ですから・・・体質ですから・・・少女時代っからのね・・・べらんめぇ〜は、ロック!

 ・・・そんなことを、家に帰ってきてから、ルパンに語っていたりした私・・・ですの。

「何だか、今日、テンション高いね、しかも、何だか、厳しいね」・・・と、苦笑するルパン。

「厳しくなんか、ないわ・・・ロックはねぇ・・・」と、ロック談を延々語っていて・・・とうとう、疲れちゃった私・・・。

 青山君、ありがとうございました。

 うん・・・また、観にいかなくちゃ・・・って気がしましたわ、とっても・・・。

 そうね、眼鏡が似合う男・・・。

 そして、昨晩、彼が着ていたシャツが、お似合いだったな。


 今日は少し、お寝坊さんな私。

 ロックな乙女はね、時間に拘束なんか、されたくはないのね。
 
 ティーンだった頃の、二重生活みたいな、ギュッとくるような感覚。

 曇っている夜空・・・よ・・・。

 ・・・お月さま・・・見えないと思っているでしょう?

 ところが、私には見えるのよ・・・暗い雲の向こうに在る、三日月が。




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25 October

月の光の下の女。


 朝方、窓を打つ雨の音。
 目が醒めてしまって、それでも静かに横たわっていて・・・。
 ・・・猫が鳴き始めたわ・・・。
「僕はご飯食べたよ、顔を見せてよ・・・」
「・・・ロンドン、寂しいふりして、ただ私を呼んでいるだけでしょ、顔を見れば、安心して、また、寝ちゃうくせに・・・」
 ・・・私、階段を降りていくわ。
 愛猫ロンドンは、育ち盛り・・・近頃、これでもかってほど、食べる。おかげで、迷い込んで来た時には、弱々しかったのに、別猫のように逞しくなっている。私が階下に降りると、嬉しそうに小躍りし、S字歩調、そして足に絡まるようにしながら居間に入る。
「雨だね、僕、外に出たいんだけどな」と、猫が言う。
「小降りになるわ、もう少しで」と、私。
「あ〜あ、退屈・・・」と、ロンドン。
「そう?・・・私はそうでもないけど・・・」
 結局、籐椅子で丸くなる猫を余所に、私はコーヒーを入れる。・・・寒くなったわね・・・フゥ〜・・・。

 午後はバタバタと。
 雨の中、出かけたり・・・。
 買い物をして帰ってくれば、もう、すぐにお夕食の支度。
 今夜は、カレー。
 どんなカレーかと言えば、時間が無いので、まるで忙しいお母さんが作るカレーのように、パッパと手早く作る。
 ルパンは食事をしてから、Mさんとの打ち合わせに出かけるという。
 ・・・だけど、せっかく作るのだもの・・・忙しいお母さん的なカレーは、時間勝負・・・そして、時間に勝利した出来栄えだったら、こっちのもの!・・・こっちのもの?・・・何よ、それ・・・「ま・ん・ぞ・く」って、言ってごらんなさい・・・なんて、独り言。
 
 独り言の次は、独りの時間。

 夜・・・

 今日、音源を送ってくださったミュージシャンの方のお仕事を聴かせていただく。

 とても堪能させていただく・・・。

 何だろう・・・少し、驚かされてしまったような気持ちになったのね。
 細部にわたって、行き届いている感覚・・・決して気負い込んでいるわけではないのに、研ぎすまされていて・・・経験の豊富さなんていう言い方は、当てはまらないのね・・・もっと、プリミティヴな処にあるもの・・・鋭い・・・瞬間のショットを見逃さないような・・・だけど、観念的・・・ああ、そう・・・大人なのだわ・・・大人の男の人なのだわ・・・そういう空気と色気があるのだわ・・・。

 雨は静か。
 ビールを呑みながら、頬杖をついて、マックから(スピ−カー繋げてますわ)聴こえる音楽を聴いていたら、ルパンが帰宅。

 音楽に口許をほころばせている私。
 ルパンは言う。
「あなたは、母親にならなくて、よかった・・・」
「そう?・・・そうかしら?・・・母親になれなかったのに?」と、私。
「悔やむこと、ないさ、そんなことを悔やむ必要はない」
「悔やまないわ」
「母親になることとは全く別な顔が、ここにある」
「どんな顔?」
「女」

 ・・・まあ、今日は、お上手ね!

 サーッという音を立てて、家の前の道路を大急ぎで駆け抜ける車の音。

 音楽は何時の間にか、止んでいて・・・

 眠る前に、もう一度、聴かせていただこうかしら?

 雨は、まだ、止んでいないのかしらね?

 空は、真っ暗。

 だけど・・・その真っ暗の向こうに、月があって・・・

 私は、その、月の光を感じるわ。

 月の光の下の女・・・か・・・。

 何だか、橋の上に独りで佇んでいるような気分。

 酔いが足りないのかしら・・・。

 迷いたい気分だわ・・・暗い道に。




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