Archive for May 2007
31 May
ファンタジーなピーター・パーンが現れるような夜
聞くところによると、マリーザ・モンチのコンサートはとても素晴らしかったらしい。
行かなかった私は、彼女のCDを久しぶりに聴きながら作業をしていたのだが、あの美しい姿と、シックな声を耳にすれば、或る癒しのようなものを感じるのではないだろうか?
サウダージ・・・について語るほどのブラジル音楽への力量は私には目下ないが、それでも、この声から描かれる世界については、感じる。
それは、”土地の匂い”を持った声なのであろう。
その匂いは、それを歌い伝える人の首・・・肩・・・胸・・・腹部・・・から匂い立つのである。
躯から匂うような、声・・・。
声・・・彼女のような声、正直、私は大変好みである。
歌わずとも、”話す”彼女の声の抑揚や雰囲気を想像することができるの・・・そういう魅力を持つ声・・・。
例えば、外国の女優の声など映画で聴いていると、その女優がまだ年若いにもかかわらず、シックで落ちついたトーンで、あたかも・・・歌うように会話している・・・。
耳元で、或は、その目の前で、または、電話の向こうから・・・何か、声だけで暗示を与えるような魔法である。
そのような音が、旋律に乗って流れたら、これは、耳が喜ぶだけでなく、心がそそられるというものだろう・・・素敵・・・。
・・・で・・・私が感じたことは・・・
この声を聴く私が、男性だったら、もっと、感じるだろう、ということである。
ああ、私は女なのである。
だから、同性の声をどれほど愛で、聴き惚れ、目隠しされたような気分になっても、男性の感じるそれとは、何か異なるような気がしてならない。
ごめんなさい・・・それは、違うよ・・・と、おっしゃる殿方があったとしても、私はかまわないわ・・・。
何故なら・・・私が女性である以上、私を癒すのは(母の声は例外である)、本当は、男性の声だったりするのだわ。
だから、マリーザの声は、何だか素敵な女友達からのメッセージを聴いているような感覚になる。
そうなの・・・そうよね・・・ん?・・・Pale blue eyes・・・?・・・彼を歌いたくなる気持ちは、誰にだってあるわ・・・しかも、男の子の気持ちになって、歌うのよね・・・女は、時々、男になったような心を持ち合わせる必要があったりするわ・・・
・・・そんなこと・・・そんなことを感じるわけなの。
私は普段、音楽に癒しは求めない。
が、声というのは、特別なもの。
夜、或る声が私に語りかけてくれる・・・その声は、微妙に揺れにじむ質で、太くなく、それでいて暖かい・・・
ピーター・パーンのような声と言ってもいいかもしれない。
見えるはずの無い、かみのけ座を眺めようと暗い窓辺に立っていたら、首をかしげながら手を差しのべてくれる声・・・とでも言おうか。
・・・君は目隠しをして、鰐の泳ぐ海に飛び込むことなんか、ないんだよ・・・
その声は、そう私を示唆してくれるように・・・思えた。
深夜、ハム・サンドを齧りながら、ビールを呑む。
さようなら・・・私のかなしみ・・・
ん・・・齧ってしまった・・・わ・・・。
いいえ、齧ることができたのだわ。
・・・夢かもしれない?
・・・夢ならそれでも、いいじゃない。
女よ・・・ファンタジーなピーター・パーンが現れる夜・・・を想え・・・
悲しみをぶっとばしたい時には。
03:04:09 |
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30 May
かみのけ座とシンデレラ
5月29日、”世界レベルの疲労”から一夜あけ、フランシスはこの朝も、あのウグイスの親子の鳴き声を聴きながら目覚める。
もう重たい疲労は忘れたわ・・・良いことばかりを今日は考えましょう・・・。
”灰かぶり姫=シンデレラ”のようなフランシスは、納得することにした。
星座、”かみのけ座”のことなど考える。
お昼頃起きてきた男と、その星座の話題になったからである。
「”かみのけ座”なんてあるんだね」男はニュースでそれを知ったらしい。
「ええ、あるわよ」占いの見地ではなく、星という意味で、星座の話が好きな彼女だった。
彼女は子供の頃から後生大事にしていた・・・『科学と学習』の付録だった・・・『星座早見盤』を出して来て、”かみのけ座”の位置を確認する。
少女時代、彼女は”かみのけ座”という名前にやや不気味な印象こそ持ったが、しかしそこは女の子、この名前が忘れられなかったらしい。
この”かみのけ座”とは、獅子座と牛飼い座の中間くらいにあるのだが、直径5度程度の範囲に無数の細かい星が散りばめられてできている星雲のようなもの。
そしてこの星座にまつわる伝説というのは、このような物語である・・・。
・・・紀元前3世紀のマケドニア、この国を統一していた王は、プトレマイオス3世。
彼の妻の名はペレニケ2世。
このペレニケは、とても美しい髪の女性だった。
或る時、アッシリアに遠征に出かけるプトレマイオス3世。
妻ペレニケは、夫の無事と勝利を願い、自らの髪の毛を切り、それを美の神アフロディテの神殿に捧げた。
闘いに勝利し、マケドニアに戻った夫プトレマイオス3世は、ペレニケの姿に失望する。
あの美しい髪がなくなってしまった彼女の姿にがっかりする。
が、全能の神ゼウスは、ペレニケの優しい心と美しい髪を愛で、アフロディテの神殿に手向けられた彼女の髪を天上に飾ることにした・・・。
少女時代のフランシスは、このようなお話が大好きだった。
夏休みにギリシャ神話を読むのが、大好きだった。
彼女のママンが、これを読みなさいと差し出してくれてから。
気紛れな女神たちや、哀れなニンフたち、怪物と闘いながら冒険する英雄、魔法にかかる若者・・・地獄は、キリスト教会がつくる以前からずっと人間の心の中に存在していたのだもの・・・。
フランシス、微笑みながら午後も過ごす。頭の中も整理整頓されているようで・・・ああ、今日は”世界レベルの平和”が、私の心にやってきた・・・そう思っていた。
男は昼下がりに出かけて行った。
夕方の風は彼女の小さな庭のオリーヴの樹を揺らしている。
庭一面、緑色で覆われている。
シンデレラの憂鬱は、カボチャの馬車によって吹き飛ぼうとしていた。
その時刻、フランシスは素直で明るく、彗星のように無邪気に流れ出るアリアを、ピグマリオンに捧げたかった。
・・・成熟に欠けているかもしれない、が。
それなのに、どうしたことかしら?
異変がやって来るわ・・・彼女はそんなこと、考えたくもないのに。
・・・その・・・一言・・・その・・・異変は・・・勝手に・・・彼女を悩ませる・・・いつも。
予告もなく彼女の心を不意にはじき飛ばし、クシャクシャにする。
夜がそろそろ深まる・・・という頃になって、やはり”灰かぶり姫”に戻ることになる、フランシス。
波が引いて行くように・・・。
受肉と復活と昇天・・・か。
だから、そんな、ドライなフランシスになる。
ドライ・・・あなたはドライな子供・・・。
昔から、家族に言われていた言葉だわ。
”世界レベルの疲労”なんて、そんなもののために生きているわけでは、ないのですもの。
・・・”かみのけ座”、今は空のどのあたりに、あるのかしら?
03:53:16 |
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29 May
世界レベルの疲労にて
5月28日、”世界レベルの疲労”でむかえた朝。
・・・だって、ほとんど眠っていないのですから。
ベッドの中で私が耳にしていたのは、明け方のウグイスの鳴き声。
毎日毎日、親鳥から鳴き方を習っていた幼いウグイスの鳴き声・・・とっても上手に鳴くようになったわね・・・。
寝室の窓から眺める空は、薄い雲に覆われていて、それは西洋の朝のような、どこか乾いた空気を思わせる。
”世界レベルの疲労”を全身に感じながら、さっと部屋着に着替え、階下へ。
熱いコーヒーをグッと飲み込めば、少し躯が元気になる・・・ずっと目覚めていたはずの躯だけれど、これで漸く、本当に覚醒していくだろう。
まだ起きてこない人を待ちながらも、洗濯を・・・ベランダに出て、外の風に当たりながら、ふと思う・・・あら、もう、あのウグイスの親子の鳴き声は、聴こえないわ・・・。
二人分の食事を用意する。
・・・ザックリとかき回して、しかも、ふんわり仕上げるスクランブル・エッグ、トーストに胡瓜とハム。ルパンは何でもパンに挿んで食べてしまうけれど、私は卵はそのままいただき、胡瓜とハムはトーストに乗せて、塩をかけて食べるのが好きである。
この胡瓜とハムを乗せる食べ方は、高校時代から今まで変わらない。
当時、頻繁に通っていたジャズ喫茶があって、そこで時々オーダーする”ハム・トースト”・・・厚く切ったトーストにたっぷりバターが塗られていて、その上に薄くスライスした胡瓜とハムが乗せられ、斜めにカットされてただけのもの・・・。
よくある喫茶店の”ハム・トースト”かもしれなくてよ・・・だけど、私はあのお店で昔味わった”ハム・トースト”が忘れられない。
お店のマスターは今の私くらいの年齢なのだけれど、いつも白いエプロンを男らしく腰に巻いているのね・・・ダンディな人で、朝、学校へ行く前に寄り道すると(午前7時半にはお店が開いているの)、「昨晩の残りのコーヒーの沸かし直しだ。只でいいからな」と笑っておっしゃるの。「じゃあ、ちょっとお水足して、アメリカンにしてください」と、量で勝負する私。・・・香りの消えた茶色い水のようなコーヒーだけれど、高校生ならそんなこと、おかまい無しよ。
「ウェス・モンゴメリー、聴きたい」なんて、言いながら、薄暗い店の中で朝から一服しているような女子高校生・・・小さなお店の扉は開け放たれていて、外を歩く人の靴音が響く朝。
これが、”私の一生のハム・トースト”の思い出・・・大袈裟ね・・・。
それでも、”世界レベルの疲労”は私の躯に居座ったまま。
午後、関島岳郎氏(栗コーダーカルテット、シカラムータ、ストラーダ・・・etc)が訪れる。英国人が”お茶の時間”にする時間帯。
アール・グレイを入れる。”HAMPSTEAD Tea&Coffee"というロンドンのお茶なのだが、オーガニックで有名。アール・グレイはブレンドされたものだが、私はこの強くハーブがかった香りと味が好きなのだ。
上品に少しずつなんて、いただかないわ・・・シュガーもレモンも添えないで、そのままグッと飲み込む。・・・美味しいお薬を飲んでいるような心地・・・つづいて、躯全体が暖まる。
夜、相も変わらず、”世界レベルの疲労”は残っているけれど、久しぶりにクリスティー女史の小説など、読む。
パリからロンドンに向かう飛行機の中でおこる殺人事件・・・巻き込まれた若い娘ジェイン・グレイと若い歯科医との出会い・・・殺されたのは欲の深い女高利貸し・・・毒矢を使用して行われたらしき殺人・・・。
さて、”灰色の脳細胞”のポワロと私・・・どちらが先に犯人を見つけ出すかしら?
キー・ワードは、機内を飛んでいたという”謎の蜂”・・・しかし、兇器は吹矢・・・。
探偵小説とは、このように疲労した躯と脳はに打ってつけ・・・そんなこと言うのは、私だけかしら?
何しろ、”世界レベル”なのですもの・・・毒でも、矢でも、蜂でも、飛んで来い!
そのひと刺しで、私の鈍重な疲労が、一気にさらわれてくれるなら。
その毒で、化学反応をおこしてくれるなら。
もうすぐ6月。
6月のロンドン・・・「ダロウェイ夫人」の朝の散歩・・・を想う。
私の好きな、物語。
私がかつて訪れた、6月のロンドン・・・
・・・宿泊したアールズ・コート界隈のあの光景・・・。
古びた教会の鐘の音とともに、朝が始まったわ・・・。
信仰の衣類を纏ったインド人の親子は静かに歩き・・・。
どんよりした朝の空、午前11時頃から晴れわたる空、昼下がりには、一雨・・・。
そして夕刻になれば、再び晴れる空・・・。
日は長く、最も美しいだろう・・・ロンドンの季節。
それを想えば、明日は、”世界レベルの平和”が訪れてくれるかもしれないわ・・・。
あら・・・そろそろ、また、あのウグイスが鳴き始めるかもしれないわ・・・。
あなたの声を聴きながら、今日は夢に溶けること、できるかしら、私。
03:32:09 |
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28 May
I never hear the word "escape"
これは、例えば、囚われの女が、吐く科白。
I never hear the word "escape"
Without a quicker blood,
A sudden expectation,
A flying attitude!
I never hear of prisons broad
By soldiers battered down,
But I tug childish at my bars
Only to fail again!
生かされているのではなく、生きているのである・・・彼女は。
夜、彼女は、彼女の花束に、こっそり、火をともした。
"escape"・・・この言葉を聞くと、彼女は果たして本当に"quicker blood"・・・になるのだろうか?
いいえ・・・彼女、ただの”ゴーシュ(不器用)”・・・だわ。
02:42:30 |
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27 May
5月は決心の月
昨夜の私のダイアリーの中の英文・・・そこに記された”present”について、お話したい。
これは、贈り物の”present”では、ない。
これは、考慮する、とか、存在する、とか、現状・・・という意味の、それである。
”her”つまり、彼女”魂”は、マイノリティーを感じても、多数派に啓蒙しようとは思わない。
そういう、”present”・・・である。
それが、”notes”・・・気づくわけである。
そして”notes”とは・・・「音、旋律、或は調べを記す」、「書き留める」、「言及する」・・・神学の意味としては、「真正である証」・・・。
夢見るように、独り過ごす今日の夕べ。
あたかも、”青春の泉を求めながら、陽気な足取りで旅をする”・・・ごとき。
5月、私は何故か、この季節に、昔から、決心をしてきたような気がする。
5月・・・青きマリアの衣が翻り、私はそこに跪き、決める。
誓う・・・というのは、今は、止めておこうかしら?
それは、あまりにも、強烈な洗礼だもの。
美しき精神に乾杯。
憧れ、知れる、もの・・・こそ。
18:21:26 |
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