Archive for November 2009

28 November

新宿の夜



 混雑した夕刻の新宿駅の地下を改札に向かいながら、彼は彼女と手を繋いだ。
「はぐれないように」と言い、彼は彼女に笑いかけた。
 女は微笑しながら男の左手に自分の右手を絡ませる。
 ずっと東京に暮らしているのだから、そして子供ではないのだから、はぐれる、なんてこと、ないのにね・・・でも、この人は仕事以外で私と出かける時は、こんなことをすぐにする、昔から。

 男は音楽家、ギタリストである。だから男の左手の指先は少し硬くなっている。が、掌はまるで羽根枕のようにフワッと女の右手を包んだ。彼女は今更ながら、これほど彼の手が柔らかなことに感激しそうだった。何故なら、彼女の手はゴツゴツしているのである、小柄な男性の手よりも骨張っているかもしれないし、血管が浮き立っている。ワイルドな手だと、彼女は感じながらも、その自分の手を嫌うつもりもなかった。そう、彼女の手も、一種の仕事人の手、鍵盤を彷徨う手、神経の発達した躯の部分、なのだから。

 東口の改札を抜け、待ち合わせの人でゴチャゴチャしている駅前を通り抜け、交差点を渡る。男の足はやや早歩きである。女はまるで糸で引かれる人形のように男の躯半分後で歩を進める。女の躯は軽いのである、目下、体重、38キロとちょっと、身長は158センチと並であるし、面やつれしているわけではないが、精霊のように軽い。
 二人とも、帽子を被り、黒いセーターにジーンズ、そしてP・コートを羽織っている。男は"SCHOTT"のPである、彼は若い頃からこれを愛用している。女は"BURBERRY"、ピンクと白の織り生地のP。

 靖国通りに出る、花園神社は酉の市だ。大通りの舗道にも屋台が出ていて赤い提灯が幾つも灯っている。日本人なら誰でも知る光景だが、この日、彼女はその灯りと賑わいをとても東洋的だと実感していた。花園神社の脇の小径を歩きながら、「酉の市、覗きたいな・・・蛇女、いるかしら?」と、彼女は思わず口走ったが、今から二人が向かうのは別の場所だ。時間はない。

 男はゴールデン街をスタスタと歩き過ぎる。小さな店の中には、ポツポツと人の気配がしていて、それらの客は、実は案外若い人も多い。辺りは暗くなっている、紙人形のような彼女、呑みたい、と正直、思い始めている、彼女にとって、そういう時間帯なのである。

 日清の交差点を渡り、新宿文化センターに到着したのは18時半を少し過ぎた頃だった。『スタンダードナンバー』と称されたコンサートである。主に、昭和40年代の歌謡曲やCM曲を演奏、かつ歌うという演目。このコンサートのオケを担当しているのは、鈴木惣一郎氏率いる"ワールドスタンダード"。この"ワールドスタンダード"のメンバーである藤原真人氏のお誘いで、彼と彼女は11月24日の夜、このホールに遊びにきた。音楽監督は、惣一郎氏である。
 歌手たちはそれぞれ二曲ずつ程度歌って、引き継がれる。昭和30年代後半に産まれた彼と彼女には、どれもこれも懐かしい楽曲である、テレビから流れた楽曲たちである。この晩の歌手として出演した人たちは、たったひとりの人を除いてほとんど昭和30年代後半以降に産まれた人たちであるが、そのたったひとりの人、とは、由紀さおりさんだった。この由紀さおりさんの"夜明けのスキャット"を、こんな風に生で聴く事になるとは面白いこと、と、彼女は真人さんに感謝していた・・・ホントよ。

 終演後、シガレットを吸いながらホールの裏庭でひと休みしていたが、彼と彼女はわざわざ楽屋には顔を出さなかった。きっとゴッチャかえしているはずよね、ロビーで合えたら挨拶いたしましょう。そういうつもりでいた。
 のだが、二人は何となく、いや、すでに、ビールあたり、呑みたいのである。
 ホールを出て、中国料理店にヒョイと入る。何とも今時ではない懐かしいムードの中国飯店である。瓶ビールと生ビールをそれぞれ注文し、餃子、春巻き、ニンニクの芽と鶏肉の炒め物など、突いていた。この店の従業員は全て中国人らしい。客とのやり取り以外、厨房やカウンター内では上海語が飛び交っている。上海語、これは北京語とニュアンスが異なる。
 彼が真人さんに携帯から電話をした、「お疲れ、今、近くで一杯ヤッてるけど?」
 ところが、珍しいことに、当の真人さんは、もうすでに電車に乗り、帰宅途中なのだとか・・・「何だか疲れちゃったみたいでさ」・・・ということらしい。それを、中国料理店にいる二人は、察することができた。

 男と女は店を後にした。しかし、まだ23時。外には雨が落ちていた。
 帽子を被っている二人には、雨はあまり感じられない。濡れている感覚は、ない。
 ふと、彼が言った。
「朝まで営業している店が歌舞伎町にあるって聞いたんだけど、ちょっとそこに寄って帰ろうか?」
 別に、朝まで歌舞伎町にいる必要はないのである、二人には帰る家がひとつ、あるのだから。
 だが、その酒場を訪れる機会として、なかなかいいタイミングではないか。

 女は夜の歌舞伎町をほっつき歩くことなど、滅多にない。久しぶりである。一々、そこに見える光景に浸透していく・・・23時、都会ではまだ宵の口、でも、どう? 例えば、ヨーロッパの大都市でこの時刻にこんなにギラギラ明るく光っている都市は、そんなにはないわ・・・とても日本的、とても東京的、とてもアジア的・・・。
「ねえ、こんなに明るい夜は、新宿とか大阪の日本にしかない可笑しな魅力よね? ・・・ロンドンもベルリンもウィーンもプラハも・・・どこもこの時間は、もっと暗かった」と、彼女が彼に尋ねれば、
「いや、東京や大阪だけじゃない、"すすきの"や那覇、それから仙台・・・規模が多少違うだけで他にも色々あるよ」
「そうなの・・・"すすきの"も、こんなに明るいの?」
「明るいね、朝まで、明るい」
「じゃぁ、パリは?」
「パリも一部分は明るいところがあったな」
「そうよね、パリって、昔から歓楽街を作ってきた街だものね」

 正直、彼女は新宿という街を特に好きだと思ったことなど、これまで一度もなかったのである。
 が、この日、彼女は今までになく、新宿の夜というものに魅力を感じた。
 というのも、ここは、絶対的に生き続ける街として君臨してきたのである。ここに生きる人たちは時代時代で変わり、また、営業する店の顔ぶれも時代と共に変化している。24時間、起きていて、ここで生きようとする人に不確かな夢を与え、また、他から来る者を拒みもしない。街全体の色というものが、万華鏡のように時によって臨機応変に変わる。変わるから続く。
 こじんまりしたスーパーで、たった数百円の買い物をするにも、「領収書、ください」という若い男。路地を斜めに小走りに駆け過ぎる緑色のスーツを着込んだ商売風の女・・・あの女、私より、少しは若いだろう・・・なんて、彼女は横目で見る。ジャニーズばりの呼びやの青年。そう、彼女から見れば、青年である。だから、彼女、雨の中に佇み、如何にも楽しそうに、「よかったら、どうですか?」、なんて冷やかす青年に微笑んで手を振るわ・・・「ありがと、bye...」って。

 雨なのである。
 が、少しも冷たくはない。
 この歌舞伎町というのは、不思議と角ごとに、ホテルがある。
「恋人たちとは、角を曲がるごとに、考えるものなのかもね」と、彼女は彼に囁いた。
「たまたま角に建つハメになったんだろう、ホテルが」と、彼は笑う。

 店の名は、アルプスという。
「あったあった、ここだ」
 ・・・歌舞伎町の西側まで来ているわ・・・だったら、駅も近いわね。
 アルプスなどというと、レトロな喫茶店のような名前だが、店内はかつてあったものを手軽に改装し無駄なく作られており、だが、チェーン店の居酒屋とはまた異なった構えだった。そして、何しろ、安い。どうやら普段はもっと混んでいたりするらしいが、この日は連休明けの火曜日ときていて、幸い、空いている。若い女性の三人連れ、中年のサラリーマンの三人連れ、学生風の男性の三人連れ、どうも、三人が多い。そして私たちの後から入ってきたのは、これはこの界隈で働いているとおぼしき女性の三人連れ、一人が二人と向かいあう状況で席についている様子を見れば一目瞭然、先輩と二人の後輩という関係だろう。女性たちは食べ物をポンポンと見繕って注文する。我ら(これを書いている私と男)とは大違いであるが、微笑ましい。
 彼と彼女は、"卵焼き"にするか“焼きウィンナー"にするか迷ったが、ウィンナーを選んだ・・・どうも、ドラマ『深夜食堂』を見ているせいか、そういう赤や黄色のものに気がそそられる・・・が、昭和世代は、この赤や黄色に染まった食べ物や飲み物が恋しいのである。
 ところが出て来たウィンナーは見事に現代的な物であり、全く赤く染まってなどいなかった。マスタードでいただく・・・ああ、ここは、『深夜食堂』では、ないのね、うふっ。
 家に二人で居る時は、いつも一緒にお酒を呑んでいる彼と彼女である。が、こうして、外に出ると、顔つきも変わる・・・それは特に、女の方だろう、が・・・。
 男は演奏活動で訪れる街々での話題などする。女は、面白がってそのエピソードを聞く・・・他人事のように、聞くのが、いいの・・・そう、あなたは私の恋人なのですけど、離れている時のあなたが何を見て、感じているか・・・私にはそれが興味深いの・・・。

 結局、彼と彼女は終電で帰宅した。
 有り難いことに座って最寄り駅まで過ごす事が出来た。

 新宿・・・そして歌舞伎町・・・。
 皆さんは、ここをどのように感じていらっしゃるか解らないが・・・

 整備され、一見美しく、今日的にあらゆる面において人好きのする開発を試みられた都会の街に比べると、ダーティーである東京の街。
 しかし、活き活きしている、雨の深夜でも、連休明けの不景気な21世紀の現代でも。

 若い恋人たち、または、若くはないとしても、"新しい"恋人たちが、夜を込めてデートする場所では、ないかもしれないわ。


 ですけどね、


 この男と女のように、もう、四半世紀も一緒に暮らす恋人たちにとっては、時に大人心を彷徨わせるには、塩梅の決して悪くはない街だったりしたのよ。


 だって、この二人には、ひとつのドアを開けて、戻る家がある。
 そうして、別々の時間を生きる術も、分かち合っている。


 翌朝は晴れていた。
 黒とピンクの二つのP・コートは、しばし太陽の下に干された。


 はしゃいだ彼女は、夕刻、熱を出した。
 明け方まで、眠れなかったからかもしれない。
 が、明け方まで眠れなかった理由は、はしゃいだ事が原因では、ないのだ。
 

 女は、今、彼女の持って産まれた本来の気質のみで生きている。
 24時間、女は、出来るだけ自分の感覚だけで生きている。
 

 翌々日の晩、26日は、下北沢で行われるライヴに行きたかった彼女。
 彼と大久保由希嬢のデュオだった。北海道に住まいを移してなお、東京でも活動している由希ちゃんに会いたかったのだが・・・。


「あなたは、今、弱っている。だから、今夜は止めておきなさい」


 という男の一言で、家で夢見るはめになった。


 とはいえ、"書を捨て、街に出る"ことは、嫌いではない。


 真人さん、ありがとう。


 あらっ、今宵も、こんな時間!


 i'm closer to the Golden dawn...


 091124-6/86
 091124-4
 091124-5



 ..* Risa *¨





04:46:04 | mom | No comments | TrackBacks

24 November

LOVE...among them



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in the streaming,
flowing the warm blood,

in the ball room,
blessing...

every express will not be disappeared...

love...all among...

with peace x




..* Risa *¨





04:34:46 | mom | 2 comments | TrackBacks

19 November

D.H.ロレンスに想う・・・



 衝動のままに自発的に行動すること・・・


   D.H.ロレンスに学ぶこと多い今日この頃。

   何て女性的な美しい表現をする作家かしら・・・?

   
 私は今、或る不確かな事のために、仕事をしようとしている。


 冷たい雨と、微熱に悩まされながら。



 x


 
 Photobucket
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 ..* Risa *¨






18:15:43 | mom | 4 comments | TrackBacks

17 November

meaning of '非人情'/from "the woman who fell to earth"








i introduced the word of '非人情(hininjo)'.
it's on my blog titled "The woman who fell to earth" lately.

i want to write about this word'非人情(hininjo) today.
because the reason is, there is sometimes misunderstanding on the expression of this word.
Japanese is complicated...like my brain too : )



the meaning of '非人情' is not same as 'inhumanity' or 'unkindness'.

'inhumanity' or 'unkindness' is '不人情(funinjo)' definitely.
'不(fu)' is 'not' or 'no', or case of 'minus'.
this is to be lacking in humane.

'人情(ninjo)' is the word meaning 'humane', and it's a popular name.
'非(hi)' is usually bad image, 'fault', 'error' or 'un-'.
but it's not bad impression to mean here. it would rather 'escape' or 'apart'...may be one of 'uncertainty' word, it's caused by the nuance of this word.
because this word was rooted from spirit of Buddhism.


so, '非人情(hininjo)' is one of thought beyond the human being.


this '非人情' leads to thought of '禅=Zen'.
sorry, just i easily say...if you forgive me...yes, everything is equal in this world.
we need to such a sense, we are living with sounds of wind and animals and plants.
this conscious is being in 'Zen'...i think, and it's very liberal spirit.
this thought denies some human arrogance which as...'Man is the measure of all things'.
however, Japanese had such a wonderful peaceful spirit from old days.
it's not like a nation of Japan now on the age, which technology and economy...this face had filled lots of love the nature, and so traditional feeling.
i love this attitude, but i'm not good Buddhist at all.

you know, there is one addition meditation too.
how to live with the spirit and we keep it for...

i think the thought of 'Zen' with meditation suggested American novelist for example, J.D.Salinger and influence expression of Beat writers in 50's......or the after flower children......


'非人情'...it's a thing to search the origin of 'Love(愛=ai), it's never nihilism.


once...there was a Japanese novelist who expressed this word/'非人情' in a work.
his name is 'Soseki Natsume', he lived in among 19th~20th century.
it was the time that change as for Japan very much when in the days of his life.
'Soseki Natsume' stayed in London for a while in beginning of the 20th century.
he watched pictures of "Pre-Raphaelite Brotherhood" in London, and he was so influenced deeply by them in those days.
and i watched them before in London too...when i had happy days in beautiful June...
ah, i seemed to get off the track, now on the novel of 'Soseki Natsume'.


the one of his novel is "草枕(Kusamakura)".
'草(kusa)' is 'grass', and '枕(makura)' is 'pillow'.
but it should better translate '枕' as 'sleeping' rather than pillow...

the situation of the written by the story is a man who tired or bored of his life is tripping with his art tools.
he met the mysterious woman while traveling.
she has character who leave from the society...she is refined and beautiful.
and he is a stranger in her world where she lives in too.
she looks like mad woman sometimes, and delicately, but on the other side, she is very intellectual...she looks like a fairy or 'Ophelia'.
yes, just 'Soseki' would image with her/heroine that 'Ophelia' on the water of J.E.Millais's......but 'Ophelia' in "Hamlet" does not reach the position for the heroine, however she is pretty, so, she is the woman whom lots of artists can makes it whatever they likes......
...a, ah...returns to the story of "草枕".
as for heroine in Soseki's world...she has something reasons and she bury for her heart that is not satisfied.
also he has something reasons and he trip for the liberate for his heart that is not satisfied.
he tries to portray of her...but his brush feels something to shortage...he is going to know what it is.
...then...just the time, the world begins to change the age of the 'War' with sound of footstep.........


there is '浮世離れ(ukiyobanare)' called in Japanese.
'浮世(ukiyo)' is meaning 'the society', it's a old word, but still used now.
and "離れ/離れる(hanare/hanareru)' is meaning 'leave'...or...'escape' is good approach here.

to escape the human's world is to see the shape of human...


"草枕” is a beautiful novel about 100 years ago from now.
but it doesn't fade away at all.
it's translation by English the titled "Three-Cornred World".


and yes, i'm not likely to fear the death and hell if i can write A beautiful Romance in my life either...


we are members of the equality in all things.
and spirit is wandering with 'Love(愛=ai)'.
to get 'Freedom(自由=jiyu)'.


meaning of '非人情' is just like 'PEACE(平和=heiwa) & LOVE'.

isn't it?

so..."the woman who fell to earth"...


give me more glass of water or wine.


and sorry...my English are some broken?



thank you x


LOVE...



..* Risa *¨







18:45:43 | mom | No comments | TrackBacks

11 November

11/8 野戦の月 / 井の頭公園にて



 野戦の月、観てまいりました、楽日に。
 大変、素晴しく、笑いありホロリとする科白、多々あり。

 私はこれまで彼らに関わらせていただいてきましたが、今年の彼らのお芝居は、時代を超えて生き抜く力を持っていると、はっきり感じました。

 役者は若い人たちも増え、よって、客席にも若い人たちが多く、桜井大造氏は50代後半にありながら、より勢力的であり、スタッフの方々面々は惜しみない愛を持って参加しています。

 彼らはこの後、北京をはじめ、大陸での公演を控え、更に、来年の井の頭での計画も立っております。

 その来年には、このお芝居のための音楽作品の過去数年分がまとまった形となり、CDとして発表される予定です。


 実は、今回のお芝居のテーマ曲の歌の録音時・・・私はクレイジー・ケン風に歌いたくて・・・で、ちょっと巻き舌(得意なのです、私は、イタリア歌曲仕込みもあって・笑)混じりで歌ってみたところ、チェリーに駄目って言われて、仕方なくそれは諦めました・・・クシュン・・・不良っぽさ、好きだけどなぁ〜・・・が、しかし、ここは役者さんたちのためにも佳く歌うことは必要です。


 dear great actors, many thanks for wonderful action!




 AND NOW...


 not the dull life, we should be out of life with full of passion!


 
 Risa x




18:31:23 | mom | 2 comments | TrackBacks