Archive for 24 February 2009

24 February

フォザリンゲイ、女王メアリーの最期の城



 相変わらず家にヒビが入るような咳で一晩過ごす。
 部屋着のまま過ごそうと思っていたが、午後、編集者の方がちょっといらっしゃるとのことで、急いで着替える。
 私の作業が一段落したら、今度は編集とデザイナーの方のお仕事である。そう思うと、まだ終わっていない。

 ということで、咳で体力消耗なんていう地味な自分への扱いも厭なので、劇的な女の人生にでも浸ってみようかと、久しぶりにメアリー・スチュアートのことなど想う。

 
 メアリー・スチュアート、16世紀のスコットランド女王である。45歳で他界。
 スコットランドで生まれたメアリーは、17歳でフランスに嫁ぐ。彼女は洗練されたフランスの文化に溶け込み、踊り、音楽、詩作といった芸術的な分野に精通し、または乗馬や狩りを楽しむ勇敢さも持つ、文句無しのフランス王妃となった。が、彼女の夫、フランソワ2世はひ弱ときている。夫の死後、彼女は再びスコットランドに戻る。

 戻った彼女は再婚する。色々な花婿候補があったにもかかわらず、彼女自ら、美貌の男性ダーンリ卿を選ぶ。しかし、この情熱的な恋も長くは続かない。彼女は男性的な別の男、ボスウェル伯に惹かれていく。

 さあ、このあたりから、いよいよメアリーの運命が人間を差し置いて暴動し始める。
 伯と共謀し、夫を殺害した彼女は囚われ人となる。
 ところが、このような立場に産まれ、また運命というものに付きまとわれている女というものは、囚われたところで再び新たな事態が待っているものなのである。

 ・・・彼女は、牢番である若い貴族の子息と共に、逃亡する・・・小舟で向こう岸に渡る二人・・・変装した彼女の頭上に見える月は、妖しい眼差しだろう、いや、月など無い晩かもしれない・・・何人の男に、私は自分の心を捧げてきただろう・・・彼女は目の前の若者をじっと見つめながら思ったかもしれない・・・綺麗な顔をしたあなた、あなたは私を救い出してみせようとしてくれる、でも、あなたにそんな力があるのかしら? 今は、あると、信じてあげるわ、これは、私からあなたへの感謝として・・・でも、私はあなたを本当に信じているかどうか、解らない・・・私はもはや、人を信じるなんてことを置き忘れてしまった人間なの・・・ただ、生き延びる機会を待っているだけ、私とは、そんな女になってしまった・・・ああ、あの若い頃の私はどこへ行ってしまったのかしら? 恐れず、優雅で、才気のあった私・・・この手の中には何でもあると、信じて疑わなかった私は、一体、どこへ消えてしまったのかしら・・・?
 この逃避行も、無駄だった。

 彼女が最後に幽閉された城の名は、『フォザリンゲイ城』。
 サンディー・デニーのいたバンド、”フォザリンゲイ”をご存知の人もおられるかもしれないが、メアリー・スチュアート最後の幽閉先が、その名の城である。

 メアリーが、「姉」と呼び、彼女のことを「妹」と呼んだ英国女王エリザベスは、遂にメアリーを処刑することにする。「姉妹」の関係とはいえ、この二人の女王たち=メアリー&エリザベスは、手紙の交換こそしても、お互い顔を合わせることもなかったと言われている。

 フォザリンゲイ城を出るメアリーは美しく着飾り、女王である自分の勇敢な死を晒すべく、断頭台に上がった。
 最期まで、ロマンティックを忘れない王妃。それでも、いくら賢くとも、女とは、流れに背けないものなのかしら? 
 これを精一杯の人生と言いたいかどうかは別として、数奇な運命と自らの機会に潔く飛び込むことに躊躇しなかった女の一生に、深夜、どこか力づけられている私だった・・・


「国家よりも大切なこと・・・それは、愛。貧しきスコットランドなどに生きてごらんなさい、ええ、私はフランスの洗練を若くして知ってしまい、その後、またこのスコットランドの不毛に移植された花です。私は懸命に女王たる役目を果たそうと必死になりましたわ・・・でもね、Risaさん、周囲はそんな私の孤独を、ほんの少しも理解してはくれなかった。私は姉であるエリザベスの国土、英国に泣きつく事をしないための策を粗野な男達と共に幾度も考えなければなりませんでした。ですが私は恋がしたかった・・・本当の恋があれば、私は国家も捨てられると思った時期がありました。いいえ、嘘です、国家も恋も、欲しかった・・・これが真実でしょう。国家と恋を得れば、エリザベスの幻から解放されるとも感じましたわ・・・しかしね、両者を手に入れることは、難しかった・・・ごらんなさいな、エリザベスを。彼女は国と恋をした、厳しく自分を戒めるように、あの人は男に心をゆるすということをしなかった。だからあくまで首を切り落とされるようなことはなかった。あの人だって、相当でしたのよ・・・でも、寂しい人、彼女は私のように、自由に感じるままに生きる事はできない人よ、堅苦しい使命や見栄ばかり張って、心を凍結させてしまう。凍結させるということは或る意味ではとても気のきいた遣り方でしょう、それくらいの気構えがなければ、よい仕事はできません、女には。哀れを感じるのは自分の部屋だけ、彼女はそういう我慢のできる人でした。恐らく、彼女は私より一枚上手だったのです。でも、彼女には、他人(ひと)から借りてきた魔術こそあっても、私のような・・・私ほどの浪漫は無かった・・・おやすみ、Risaさん、眠れる城、フォザリンゲイより・・・メアリー」


 ・・・と、このようなメアリー女王の声が聴こえたような気持ちになって、私もおやすみなさい。


 フォザリンゲイ・・幻の2ndが、発表されるとかされたとか?


 メアリー・スチュアートの亡霊あたりと寄り添って、久しぶりにトラッド&フォークに耳、傾けたい今日この頃。



 ..* Risa *¨






03:33:52 | mom | No comments | TrackBacks