Archive for 05 February 2009

05 February

出版の世界、と、酔わない私



  



 疲れているようなので、正直者である。


 ベテラン編集者の目が、プロ独特の色に変わるのを目の前で見た。
 私は煙草を吸いながらお茶をすすっていた。
 氏も煙草を吸っている。私の原稿に目を通しながら、翡翠の灰皿を「どうぞ」と、こちらに滑らせる。

 昨年、すでに原稿の一部を読んでいただいているので、今回の私の作風と表現について、もはや氏はご存知なのであるが、この日は最終チェック、200頁を越える原稿に、所謂、『赤』を入れていただく段階である。

「いや、よく遣りましたね!」と、氏は一通りの頁を確認しながらおっしゃった。
 ・・・スゲェ〜! と、内心、私は小さく叫んだ。
 氏はこうおっしゃってくださった、勿論、改めて全部読ませていただくが、この様子だとほとんど『赤』を入れる必要はないだろう、と。
 そう私におっしゃるお顔は、もう、柔和。
「チェックが終わったら、早々にデータをデザイナーに送りましょう」
 
 一冊の本を作るにも、色々段取りがある。原稿用紙で、という時代でもなくなりつつある昨今、PC上でやり取りができるのは楽である。
 しかし、一度、見本を作る作業がある。頁や表紙の仕上がりを確認するために、文字のフォント、ハンヅラのスペース、そして表紙の色や紙質、である。校正が済めばそれで終わるわけではなく、書籍自体のfigureを作ったりもする。本を作る作業とは案外慎重に運ばれるものである。
 この一・二週間は、そのような状況になるのだろう。装丁は派手だが、或る観点から見ると、狙ったわけでもないのだが、これ、時代的にはエコな仕上がりになるか。
 どうやら私が頭をひねらせる時期は、一段落したようである。

「発行日を決めましょう」と言われる。
 氏が凡その日程を割り出してくださったのだが、その日というのが、私にとっては、これまた有り難い日となったのである。
 その指定された日は、仏滅でも赤口でもとりあえず人間である私という意味で、良き一日と思う必要のある日。だが、40数年前のその日は、北陸に大雪が降った。関東も、雪の日だった。
 で、私は思わず、「有り難きしあわせ!」と言えば、
「そうなんですか? いやいや、最高じゃないですか」と、喜んでくださる氏であった。

 
 私の著作についての話が終了した後、出版の世界や、言葉の遣い方の話題で面白く談話する。
 これでも、20代の一時期、日本語教師などという職に携った経験もあるRisaなのだが、それでも、出版業界が適当と考える当用漢字とそうでない漢字の区別や、描写としての適切な漢字表記についてのことなど、つまびらかにして語っていただけるとひとつひとつが感慨深い。
 また、例えば「行く」「続く」「かも知れない」等の漢字表記についてなども、その作者の文章との兼ね合いで描写を選択したりと、細かい方面に更に話しが進む。

 そうして実に興味深いこととして、プロの編集者から観た、世の中の「文章を書く人」に向けてのちょとしたご発言=「考えもの」の書き方へのご意見もうかがった。
 ここでその「考えもの」の表現の具体例はあえて上げないが、私も氏のお話に共感せずにはいられなかったのは正直なことだった。

 余所の方の文章を拝読していて私が時々感じるのは、「れる」「られる」の遣い方や丁寧語&敬語はさておき(「れる」「られる」については現代語としてある程度生きてしまっているものがあるので)、可能動詞の誤りについて、気になることがある。可能動詞の誤りとは、その言葉の遣い方が、可能表現でありながら、敬語表現の意味にとることができるような書き方と言えばよいだろうか。
 特に東京圏に暮らす人の中には、他県からの人も多いので、一概に誤りとは限らないのだろうが、時々疑問を感じながら読むこともある。
 が、私は方言が好きなのである。大学時代、様々な土地から集まった学友との話題として、この方言の遣い方があったが、そのお話をする時、とても愉しく興味深いものがあった。そして何故か、一般に言われる標準語の圏内から遠くに育った方程、標準語が綺麗だったりした印象も、あった。
 余談ではあるが、今、私が遣った「綺麗」という漢字、これはどちらかというと「きれい」とひらがなで表記することが奨励されているとも聞いた。だが私は「綺麗」と、どうしても綴りたい性分らしい。

 日本人であれば、ひととおりに伝えられる日本語。
 それでも、書くということを、甘く考え過ぎないようにすることは、大切です。


          *


「最近、久しぶりに大人に褒めていただけて、嬉しい」と、チェリーに言ったところ、彼は笑って言う。
「大人、ね」と。

 当然、この私も年齢的には大人なのだが、私が言う大人、とは、50歳以上で、未来を視るお仕事をバリバリとされている方のことである。
 過去の経験こそ大切にされていても、常に自身の今を生き、その仕事のもたらす未来を見据える作業に専念される人である。
 このまま続けばいい(つづけば・・・とは書かないのかな、私はこういう時)だけではなく、ご自身の仕事に未来への責任に近いものをお持ちになられているように、こちらが感じられる仕事をなさっている方に、私は近頃、深く感じ入ってしまう。


 ところで、今月になってから左薬指に嵌めているアメジストの指輪。
 アメジストという石の特徴として、「お酒に酔わない」という効果もあるというが、そのせいかしら?
 ここ数日、酔わない私である。


 hunky dory......





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