Archive for 13 April 2009

13 April

steal the handy dream



 桜吹雪の中を車は通り抜けた。
 信号は青で、こちらは鉄の塊。
 その、通り抜けるものをからかうように、舞い上がり、渦を巻き、花弁たちは再び次の車に躍りかかる。
 花弁は雪よりも軽い。
 だから風を切りながら向かってきた存在に跳ねられようとも、すぐには落下せず、右へ左へ、上へ斜めへと飛び交う。
 仮に私の運転する青いボディーの表面が濡れていたならば、それらのうちの幾つかはボンネットやルーフに便乗し、どこかまで、私と一緒だっただろう。
 しかし、青いボディーは微熱を振りはらうように走り抜けた。
 ルームミラー越しに、遠ざかっていく花弁のダンスをちらっと見届ける。
 去っていく私を追いもせず、私という人間のことなど、ただの通りすがりと見なしたように忘れ、花弁は同じ場所で酔狂なテーマをくり返している。

 長い間、ミラーを覗いているわけにもいかない。
 待っている緩いカーヴ。
 その手前にさしかかる時、私はブレーキはかけない、自然に速度を落とし、ハンドルをぐっと"In"に切り、曲がりきった所でアクセルの踏み込みを深くするわ。

 カーヴの先に見えたのは、枝垂れ桜と濃薄の数種類の桃の立ち並ぶ景色、こちらは不動のまま穏やかに。
 ふと思ったわ・・・
 人が生きている間に見る光景が、このようなものばかりだったら、人は狂ってしまうのではないかしら? 
 これは春という季節の贈り物。
 もしもこの誘惑的な接吻のような贈り物を全身に浴びることに毎日甘んじていたら、ソドムとゴモラのように滅んでしまうだろう・・・人の命は、花弁よりも軽くなっていつもどこかを浮遊しているかもしれないわ・・・浮遊することはいいけれど、もう今まで在った樹の枝に戻ることもできない花弁たちは、短く、或いは、長く彷徨い、その後、その落ちた場所で風雨にさらされ、昆虫の透明な羽根のような姿になりながら渇き、粉になり、消えていくだろう・・・

 夕食をいただきながら、TVのニュースを見た。
 生きるために、海賊になった人々がいる。それは或る国の事情がもたらした一つの結果でもあるという。
 賊とは、盗んだり、叛逆行為をしたり、悪いことをする者たちのことを言うが、それでも生きたいと願っての結果と勝手に想像してみれば、何か、心を動かされたりもする。不謹慎であることは解っているし、勿論そのために人を殺めたとしたら、それはタブーである。
 だが、それでも生きていたいと思い、生きることを択ぶ人間の生に対する欲望を、どう受けとめるか・・・TVの中に写った彼らの中の一人の目を見た瞬間、私は生きることへのどうしようもない人間の性を感じたような気がしたが・・・。
 命は、重い。
 全ての人の命は重く、あの桜の花弁のように跳ねられても微笑みを浮かべるようにして飛び散るような軽さはない。

 深夜、南東の空に浮かぶ月を見る。
 オリーヴの枝の隙間からこっそりこちらを見ている。
 今宵は、今宵に限って、月がこちらを見ているなどというのは、人間の思い込みが言わせるのだわ、と思い、窓を閉める。
 だって、それは・・・見るために生まれた人の人生という在り方が、その対象物にも、同じことを求めているだけ。
 見るためだけじゃ、いけない、そのつづきがなければ、いけないわ。
 そこで、春の落とし穴に我知らず入り込んでいたことに気づく。
 手軽な夢は軽いわ、そして、それを盗む族があるの。


 蒼い目の詩人は、今頃、何を描いているだろう。
 彼は必ずしもそこにあるものを見てはいない。
 彼が描くのは、彼の心の中で創り出された花であり人であり、光景。
 それらはこの自然界には見ることの出来ない世界。
 その世界の中に、彼は時々、たった独り、影のように佇む自分の姿を反映する。


 sparkling through the night
 the pale loneliness hero
 steal the handy dream
 do as you like it
 as like heyday
 and waiting for the dawn



 ..* Risa *¨




02:39:45 | mom | No comments | TrackBacks