Archive for 15 April 2009

15 April

アリスと老紳士とダイアモンド



 私の裡にいる神様の声が、「何でもひとりで遣りなさい」と言いつづけるようになって、何ヶ月になるかしら?
 そのおかげで、私は潔くなれるようにもなったが、どうも「ひとりで」というと、何か、他者に迷惑をかけているような気がして気が引ける。
 つまり、徹底して強引になれない私という者がいて(しかし、かなり夢中になる質なのだが)、押し切ってまで何かを通そうとしないような性質があるのだろう・・・どこかで、おっとりと一歩引いてしまうような。
 そのおかげで、昔から時々、「あなたは、孤高の人だね」なんて人に言われた。「孤高」などというと、たいしたイメージだが、そんなことはない、フワフワしているだけだろう。

 今日は朝から何事もパッとせず、それで不機嫌になるのもつまらないので、それこそ春の落とし穴に入り込んだ気持ちになって、夜、『不思議の国のアリス』など読む。

 Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank and of having nothing to do・・・

 ・・・で始まるアリスの夢物語、そして「ひな菊の首飾りを作るのは楽しいけれど、わざわざ立ち上がってひな菊を摘む必要があるかしら」と、うんざりしているアリスは、今夜の私のごとく。

 兎の穴から地下へ落ちていくと、そこは「wonderland」なのである。地下へという発想は19世紀以前から流行った西洋の引力に対するイメージだとも言えるようだが、それを決してマイナス要因にしていない様子がいい。天文への理想があった反面、地球の底への謎もあったというわけだろう。
 しかも、アリスは地下世界で小さくなったり大きくなったりする。これも、人間の心理状態を表していて、特にこの『アリス』では、彼女が小さくなった時の言葉たちにみる得意そうな言い方が可愛らしい。・・・例えば、puppy(仔犬)よりも小さいアリスがpuppyと戯れる場面の後でキンポウゲに寄りかかりながら彼女が言うのは・・・「たくさんの芸を教えてあげたかったわ、もしも、もしも私がそれに相当するサイズだったら!(I should have liked teaching it tricks very much, if...if I'd only been the right size to do it!)」。
『ガリバー旅行記』も小人の世界に行くが、このアリスも「wonderland」で特異な存在として迎えられ、困惑しながらも冒険する。ここには人間至上主義的な見解を拒む作家たちの思想も込められているが、実際、『ガリバー』の作者、スウィフトは厭世家だったと聞いたことがある。
 しかし少女の頃から何度もアリスを読み、久しぶりに今宵も途中まで作品を再読したが、私はルイス・キャロルに厭世趣味を感じることはできない。キャロルは寛大であり、人間同士の繋がりを好んだはずだわ・・・だって、物語のアリスは「wonderland」で遭遇する様々な者たち(puppyの次に、アリスはマッシュルームの淵からblue caterpillar=青い芋虫に遭遇するわ)に困惑させられながらも、彼らの声に耳を傾けずにいられない。アリスは不思議な世界の中で自分の知らないことをたくさん知らされるわ・・・人間界では会話できなくても、「wonderland」でなら、通じる言葉・・・。

 ね、もしかしたら、誰もが「孤高」であることを裡に秘めているのではないかしら。
 だけど、私は人間が好き。
 人間が好きな私ならば、人間を取り巻く世界も好き。

 ・・・夕刻、スーパーで遇った老紳士は、ほんのりと素敵な香りを躯のどこかに振りかけていた・・・彼は私の父と同じくらいの年齢だわ・・・そうして、タスポを使ってシガレットを買おうとしていた・・・買おうとしながら、次のもうひとつを押すタイミングが速くて、何度も赤いボタンを押すのね。おせっかいな私は思わず声をかけてしまった・・・「今、押して!」
 大きなお世話だった・・・が、老紳士は、「はい、ありがとう」と言い、シガレットを3つ買うと、カートを押してエレベーターに乗った。私は次のエレベーターに乗り、階上へ。そこは駐車場、ふと見ればさっきの老紳士が車に乗り込むところだった。私の隣の隣に駐車していた彼の車はセダン、TOYOTAの高級車だった。一人暮らしの方とは思えない様子だった、何故か、そう、私には感じられた。しかし、あの老紳士、ひとりでたくさん買い物をし、悠々と運転し、販売機前でこそ、タイミングを逃しながらシガレットを購入していたが、鳥打ち帽を被りツイードのジャケットを羽織るとてもクールなお爺さまであった。あの人は、私などに背後から声をかけられて、おかしな気分だったに違いない。しかし、それでも、厭な顔もせず、高価な男性コロンの香りを自動販売機の前に残しながら、買い物を終えた。

 ・・・「何でもひとりで遣りなさい」・・・

 夕刻に出会った老紳士のような神が、囁く言葉・・・かもしれない。

 フワフワ、ヒョロヒョロした私は、夕刻のスーパーで神に遇った気がしたが、それも、「孤高」が言わせる科白と、十分承知。

 だが、アリスになった自分と思えば、この春雨の夕刻、スーパーマーケットの穴に一瞬落ち、「wonderland」の魔法使いに遭遇した、なんていう夢物語の一日にしたいのである。

 ・・・「何でもひとりで遣りなさい」・・・

 では、明日は、この地球が産んだ鉱物、「無敵」のダイアモンドと共に、暮らしましょうか。
「孤高」における流儀を守り、尚かつ、あの老紳士のようにクールに。


 お話は変わるが、私の文章を「大好きです」と、おっしゃってくださった青年の方を知った。
 私はこの、「大好き」という言葉、非常に好きなのだ。
 実際、私も素直に、この言葉を使う。
 使った後、後悔など絶対に、しない。迷いのない正直な言葉として、使う。
 私はそのような心持ちでおられる方と言葉を通じて出会えたことが嬉しい。
 何故なら、彼は、おそらく私と同様の心で私に向かい合ってくださったと感じるから・・・。
 それは、人間同士として。
 それは、この人間の世界こそ、「wonderland」と呼ぶに相応しい世界と感じたくなることがあったとしても・・・その世界において、かようにして、透明な握手ができるという確信であり、夢のような歓び。


 i am closer to the golden dawn・・・

 愛らしいウグイスの声が、そろそろ聴こえてきたわ・・・早朝に啼く、ウグイス・・・おはよう・・・dear・・・


 Photobucket
 『YES』桜井李早:著/MARU書房

 著書『YES』の通販のお知らせです。
 お値段は1500円+送料手数料200円です。
 御注文は、お名前、発送先、部数をお書き添えのうえこちらまで。

 御注文くださった方のプライバシーは、当然、厳守させていただきます。

 PEACE & LOVE


 ..* Risa *¨





04:53:36 | mom | No comments | TrackBacks