Complete text -- "ムーンライダーズ / i am on..."

23 April

ムーンライダーズ / i am on...



 そう、コンサートは、客電を落とさず始まった。こちら側とあちら側に境界がないまま、バンドはズバリ、世界を広げた。そこに見る音楽家たちは、ひとりを除いて皆赤い色の入った衣装を身に着けている。赤をカードのハートに準えたとして・・・その赤の数が多いほど、ハートの数の大きさと思いたくなりそうな絵姿・・・6人は、還暦が近い。そして、"A(エース)"は真っ赤なギターを抱き、ど真ん中に立っていた。トランプのハートの世界にもぐり込もう、黒はジョーカーだ。この日の赤は、還暦をイメージした赤だが、私にはそれよりもpassionの赤と映る。passion、情熱だが、もうひとつの意味は受難・・・まさにそこに立つ音楽家の人生が見せる(魅せる)物語のごとく。

 ここは東京、渋谷の19時を過ぎたばかり、まだ宵の口だが、世界が変わる。私はWONDERLANDに連れて行かれようとしていた。
 少し経つとジェネシスの呪文のように、あの高い所から聴こえてくるような遥かな音が・・・それを運んでくるのは、ペガサスのような羽根を持った聖人か妖かしで、こちらの気分はグッとゴージャスになる。ロック・コンサートというものは、このように特殊なハートになりながら、日常の夜に潜むブラックホールへ堕ちていくような感覚になるものなの、と、ひとり、ほくそ笑んだ。・・・跳ねっ返りな自分に、今夜は久々になれそう・・・だって、相手がそう手招きしている。"talent"という言葉があるけれど、これをこの国では、一般に知れる芸能の人というような意味で使うが、その言葉の正しい解釈で私はムーンライダーズを感じた。"talent"とは、神から人間に託された才能、または天分のことを言う。だから"talent"とは、努力の成果がもたらした結果ではなく、持って産まれた質をさす。そういう"talent"の集まりが、この人たちなのだと実感した。
 昨年暮から毎月一曲ずつ配信されていたというメンバーの方それぞれの楽曲を楽しみながらも、ああ、きっと、これらの曲は、今後も少なからず変貌していくのだろうな、と直感した。そして白井良明さんの曲、これを聴きながら、また氏の演奏を拝見しながら、ジョー・ウォルシュを感じていた私だった(私はジョー・ウォルシュ、とっても好きなのだ!)・・・ミラクルでどこかセンチメンタルな香りがするのだけれど、男前を気取っていない、少年の心がパッと繰り広げられていくようなメロディ・・・ステキだった・・・。

 演奏は後半に向かうに連れ、グイグイ、グビグビと客席を引っ張っていく。これは私の心の移り変わりも手伝っているかと思うが、ステージからの音の印象が微妙に変わり、輪郭がはっきり視えてくる。博文さんのベースの音に胸ぐらを掴まれた気がしたが、氏がベースを弾く姿は何ともセクシーなのだから、仕方あるまい。華奢な男性がベースを弾いている姿にうっとりすることが多い私なのだが、その理由は、左腕(右利きの人の場合)の肘の角度と動きに独特なものがあるのよ・・・大きな躯の人には見る事のできない魅力、長いネックの上を移動する手も、どこかエロティックである・・・失礼・・・。そうして、ただひとりの黒装束、ジョーカー/夏秋君のドラムには胸を打たれた・・・彼のスティックの振りはあたかも天使のよう・・・。

 30数年の年月を、音楽で暮らすという曖昧な道のりをムーンライダーズはいつも人々を魅了しながら辿ってきた。私が10代、丁度ロックに目覚めた頃、この人たちはもう大人だったのだわ・・・確か慶一さんは私の叔母ミッジと同じ歳。彼女がロンドンに飛んで行った大阪万博も終わった時代、慶一さんは、この業界に飛び込まれたのでしょう・・・そんな時代に青春を謳歌した人たちの底力には、敵わないものがある、ビートルズが解散し、踵の高いギラギラしたブーツが流行る頃のロンドン・・・(因みに、私のLUV/David Bowieの'80年にリリースされた13枚目のアルバム『SCARY MONSTERS』のライナーをお書きになっているのは鈴木慶一さんだったはず・・・実は昨年、私は或る外国人の友・・・マリアンヌ・フェイスフルとの対話などしたギタリストでもあり過去東京にも遊びに来た経験のある私と同世代の粋な巴里っ子・・・と、このアルバムのことで面白いメッセージ交換などしたっけ・・・)。私の青春と10年ちょっとの時代の違いだが、なかなか追いつけない・・・あちらは全て手探りで冒険しただろう、しかし、少し遅れてきた我が世代は、全て手探りするほどの必要もなかったかもしれない。要するに、魔法を信じる術を、そしてその魔法を使う手段を本に書いていくような道のりをした世代と、魔法を信じることを許され、その魔法を使う手本を手に入れることがより可能な世代の異なりかもしれない・・・いや、こんな考え、古いか? 古いとおっしゃるなら、手探りで遣ってごらんなさい、大変なエネルギーを使いますわ、恐らく。その大変なエネルギーを音楽ですっ飛ばしながら大人になることは、チャーミングの極みだわ。我が世代も、かく在るべき時が訪れようとしている。
 ああ・・・大人って素敵・・・大人のWONDERLANDよ・・・こうなると、もはや、don't trustの境目など、永遠にまかせようではないかと感じてくる。
 
 yes・・・鈴木慶一さんは、私のWONDERLANDの大魔法使いなのだ!
 大魔法使いは、ゴージャスな杖を振り、今年1月の或る寒い晩遅く、私に魔法をかけた。目が渇き、私は自分の作業を日々くり返していた。それは、『YES』という本を発表するための作業で、そろそろ締切りが近づく時期のことだった。そこへ深夜届いたメッセージは、私の乾いた目に溢れんばかりの潤いを与え、その後の私の作業のための十分過ぎるくらいの潤滑油を流し込んだ。氏のメッセージは、明らかに魔法だった。Sir・・・yes, just i believe your magic・・・氏の言葉/呪文は極めてダンディであり、クールなもの・・・私は大きな樹木に抱かれたように勇敢になることができたの。
 その慶一さんの言葉/魔法の言葉は、そのまま私の著書に載ったわ・・・でね、氏の魔法を覗き込んでごらんになりたいなら、『YES』という本を開いてみる必要がございます。
 そうして私はその晩、こんなことを思った。
「あの人のように、生きてみたい!」

 様々なことを心に浮かべながら鑑賞した、4月21日のムーンライダーズのコンサートだった。
 終演後、やはりコンサートに遊びにいらしていたあがた森魚さん、知恵さんにお会いする。その後、ホールでの打ち上げは岡田さんの還暦の祝賀会としての和やかな時間が過ぎた。

 22時半が近い頃、"avec"あがたさん&映像ディレクターの竹藤佳世さんで、AXを後にする。この時刻、雨も激しく、3人で渋谷の地下に降りる。お寿司屋さんである。
 久しぶりにお会いしたあがたさんであったが、慶一さんが大魔法使いなら、この方は大錬金術師である。great you are・・・
 ・・・WONDERLANDは、どうやらAXを出ても続いているらしい。私という小さな妖精は、完全に雨の夜の虜、おかげで、この東京の地下では、少し饒舌に過ぎたかもしれない。
 竹藤女史は、傍らでカメラを回し始めた。あがた森魚氏という大錬金術師は、隙あらば映像の世界へ突入していくわ・・・私は凄く自由な気分になり、「このビール、何か盛ってあるのではなくて?」、なんてちょっと惑いながらも、目の前にいる永遠の青年の暮れない瞳に動かされていた。
 24時を回った頃、渋谷を後にした3人だった。シンデレラのようにね。
 そうして、あがたさんは、ご自身の冊子を作られているのだが、その冊子に、私の文章を掲載していただくことになった。
 となると、私ことちっぽけな妖精は、一瞬変貌して、不老不死の女盗賊に変貌する必要があるのだわ・・・。


 私は永遠と魔法を信じる者。

 living into deep eternity......

 now i am on...

 WONDERLANDには及ばずとも、私は私のwonderlandを、生き始めようとしている、今日この頃。

 sending my lotta LOVE to you...

 天井に、"YES"。

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 『YES』桜井李早:著/MARU書房

 著書『YES』の通販のお知らせです。
 お値段は1500円+送料手数料200円です。
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 バラ色のゴーシュこと・・・..* Risa *¨・・・より






03:24:37 | mom | | TrackBacks
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